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家族時間の宿 体験レポート

親戚がもてなしてくれるような、気軽さと居心地の良さがたまらない。


 海岸沿いの民宿街にある宿に、昼過ぎに到着。
 庭を手入をしていた女将が「いらっしゃいませ」と微笑む。聞けば、庭作りは女将がすべてを受け持ち、近くに自家菜園もあるのだと。
「お食事の野菜は、ほぼすべて自家製なんですよ」

 ほがらかな女将の笑顔に、こちらの顔もつい緩む。部屋に案内され、風呂やトイレの位置を説明された。民宿は大抵の場合、風呂・トイレは共同だが、よく掃除が行き届いている。
「お使いになるときは、念のために鍵を掛けてくださいね。あ、もちろんお部屋のほうも鍵がかかりますから」
 ひと昔に比べ、民宿は便利になった。歯ブラシやタオルを用意していたり、寝巻きを貸してくれる場合がある。ホテル・旅館感覚で身軽に行ける宿もあるのだ。

背伸びした豪華さはないけれど、普通の時間を過ごす贅沢。

 ここに足を運ぶのは初めてだったので、とりあえず近所を散策してみる。
 海岸の民宿街は昭和の趣を充分に残していて、散歩するだけでノスタルジーに浸ることができる。海風を避ける槙の生け垣、瓦葺きの屋根、軒先に吊るされた洗濯物。どの建物が民宿で、どの建物が普通の住宅なのか、一瞬判断に迷う。車がやっと一台通り抜けられる路地、昔ながらの雑貨屋、花が供えられている小さな祠。都会ではもう滅多に見ることができなくなった、昔ながらの生活がそこにある。
 宿に戻ると、今度は猫が迎えてくれた。にゃあ、と別なところからも声がする。魚が入っていたであろう発泡スチロールの箱をねぐらにしている猫もいた。猫と遊ぶことしばし。時間に追いまくられる観光旅行ではできない過ごし方だ。
 猫と戯れていると若女将が現れて、エサを与えながらこの子たちの日常を話してくれた。民宿の猫として客の食べ物を欲しがらないよう、夕食前にたっぷりエサを与えておくのだとか。

 夕食前に布団を敷いてごろりと寝ころぶ。自分で好きなときに布団を敷き、横になることができるそんな自由が民宿のよさだ。
 縁側からの風が心地よい。ついうとうとしてしまった。そうこうするうちに夕食の時間になったようだ。
 途中、飾られた調度品にしげしげ見入る父親と息子らしきふたり連れに出会った。
「この雛人形は、どうやら江戸時代のものらしいですよ。見事だなあ」
 ほう、と感心して皆でしばし見入る。
 どうやら同宿の親子は明日、釣り船に乗るらしい。そんなことを話しながら、広間に入った。